商品を購入する方はこちら

【発酵思想 Vol.3】〜自分と他者の境界線〜自分を構成してる物は何か?

こんにちは。
前回は、「感謝経済を創るのではなく、なぜ醸すなのか?」について書かせていただきました。

【発酵思想 Vol.2】感謝経済を創るのではなく、なぜ醸すなのか?

今回は、自分と他者の境界線について綴っていきます。

「自分とは何者なのか?」ということを考えたことがある人は多いと思います。

自分の性格や夢や目標、生きている意味など様々な場面で自分と向き合って考えさせられることがあります。

しかし、「自分を構成してる物は何か?」について思考も巡らせる人はあまりいないと思います。

自分とは何物なのか?

人を構成しているのは、細胞であり、細胞の集合体が人であるというのは常識です。

もっと言えば、細胞を構成する遺伝子(DNA)の集合体が人間を定義しているというのも常識になっています。

しかし、細胞や遺伝子があれば人と言えるのでしょうか。

むしろ、細胞を構成する遺伝子さえあれば人として存在できるのでしょうか。

人間の細胞の数は、およそ37兆個あると言われ、日々我々の細胞は生成消滅しており、新たな命(細胞)が誕生しています。

その細胞に対して、大腸菌や乳酸菌のような体内外の微生物(細菌)たちはどのぐらいいるのでしょうか?

一人の人に微生物は、およそ100兆個いると言われています。我々の身体には微生物が細胞の約3倍も存在していることもまた事実なのです。

自分の一部である微生物

微生物もまた我々が人間として生きるために欠かせない存在であることがわかると思います。

日々、僕らが病気をしないで健康に生活ができるのは、微生物が身体の中で活動してくれるおかげなのです。

しかし、そんな微生物を現代人は毛嫌いしているのです。

例えば、帰宅後には、石鹸で手を洗い、アルコール消毒で微生物を殺し、お風呂に入れば、シャンプーやボディーソープといった洗剤で身体の外にいる微生物を殺菌します。

また、僕らが口に入れる食べ物も農薬や防腐剤がかけられた食べ物を食べます。

微量とは言え、我々の身体の中でも消毒は行われるのです。

身体のバランスを保っていた微生物を虐殺し、身体を侵略しようとする微生物によって病に犯され、その微生物を退治するために薬を身体に投入する。という何とも皮肉な現実が今この瞬間も行われています。

こうして、現代人は、家族同然、自分と一体となっていたはずの運命共同体である細菌たちを汚い存在として消毒殺菌し、無菌状態を綺麗な存在として扱うようになりました。

果たして、それでいいのでしょうか。

微生物という存在は、僕ら人間の意思で動くものではありませんし、時に我々の身体を蝕む存在でもあります。

つまり、寄生しあう関係性の中で共存し助け合いながら生きている身近な存在です。

彼らに日々感謝しながら生かされているという感覚を持っている人はどれぐらいいるのでしょうか。

僕らが食べたものを分解してくれるのも微生物であり、僕らが普段何気なく呼吸している酸素を供給してくれるのもまた微生物の働きです。

彼ら無くして、僕らは存在しえないのにも関わらず、有害無害に関わらず消毒殺菌で彼らを皆殺しにする残酷非道なことをなんの疑いもしないで行なっているわけです。

そして、有害だからといって殺していいわけではありません。

自然の生態系の中で必要だから万物は存在しており、人間にとって都合の悪い微生物から良い微生物まで全てのバランスが調和して初めて健全な地球環境が整い、体内環境が整います。

自分という存在が生きていくためには、微生物という存在が重要であり、微生物の視点から見れば、我々の身体というのは微生物が生きていくための器であり、その器が健康でなければ微生物も生きていけないわけです。

お互いに持ちつ持たれつの関係の中で、日々、ご飯を食べ、水を飲み、睡眠をしているのです。

身体の栄養バランスやストレスなどが偏った時に体調を崩し、最悪の場合死んでしまいます。

自分という存在の指揮官である微生物の声を聞き、毎日生活するというのは、バカバカしく聞こえるかもしれませんが、本当に大事なことではないでしょうか。

自立という幻想と他力本願な社会

また、これは微生物に限った話ではありません。

人間社会も同様に自分一人では生きていくことはできません。

毎日の生活必需品は、自分で生産しているでしょうか。

スイッチを押せば電気がつき、蛇口をひねれば水が出るという仕組みは自分で作ったのでしょうか。

そうしたものは、お金を払えば買えるものかもしれません。

そして、そのインフラを手に入れるために汗を流し働いているから、お金を払えば使えて当然と考える人もいるかもしれません。

もし、あなたが汗を流し必死に働いていて作った何かを誰かが当然な顔で感謝もしないでお金だけ渡されて嬉しいでしょうか。

自分という存在一人で自立することはできず、他者との共生無くしては生きることはできません。

すなわち、我々は社会という人間ネットワークの中で生かされ、地球という自然ネットワークで生かされ、太陽系という惑星ネットワークのなかで生かされている他力本願な存在でしかないのです。

「生きている」ではなく「生かされている」という感覚

僕ら人間は、単細胞生物の分裂とは違い自分一人で生まれることはできません。
(単細胞生物も突如無から生まれることはなく、その母体がありますが。)

全ての人に、産んでくれた両親の存在があります。お腹を痛めて、産んでくれた母親の存在と父親の存在があります。

悲しいことですが、たとえ望まれないで生まれた人でさえ、今ここに生かされ存在しているのは、育ての親がいます。

無償の愛を受けて育ち、生かされたからこそ今この瞬間、生きています。

儒教で孔子が親孝行が何よりも大事とされるのは、親という存在なくして自分という存在は存在し得ないため、どんなことがあろうと両親を大事にするというところから来ています。

そうした家族という生命ネットワークの中に内包された存在として生かされています。

「生かされている」という感覚を持つことが自己という存在を超越し、自分と他人という分断の膜が溶け出し、融合するためには必要です。

そして、その生かされているという感覚が自然に心の底から湧き上がる瞬間が「ありがとう」と口にする感謝の言葉です。

「ありがとう」の語源は、「有難し」であり有ることが難しく当たり前ではないことを意味しています。

まさに、生かさせていただいているということを意識する時に感じる感情こそ感謝の念ではないでしょうか。

資本主義による都市化が産んだ自己責任論

話が少々ズレますが、市場経済というシステムはよくできた仕組みです。

構成員であるお金に依存する人が自己利益を追求し、お金を媒介として労働と消費を連続的に行うことで自己利益を追求できるシステムなのです。

このお金という存在が労働者と消費者という二者を無縁にし、コミュニケーションを取らなくても互いの利益を満たすことができる仕組みなので、地球の裏側にいる人であろうと、お金さえあれば取引が成立し感謝すら必要なくなってしまうのですから。

その結果、自立自活が促され、自己責任論で弱者が社会のお荷物と言われる始末です。

お金さえ払えば何をしてもいいという風潮が日本だけでなく、近代化した世界では自然のことのように行われています。

しかし、市場経済という自己増殖するシステム自体は素晴らしくても、そこに介在する人間が、システマチックな合理的な存在ではなく、無縁な人から冷たくお金をもらうだけでは嬉しくないと思う感情を生み出し、物質的に豊かになっても精神的に貧しいという相対的な貧困が生まれているというシステムの前提条件との矛盾を孕んだ市場経済というシステムが、現実社会と噛み合わなくなりつつあることが表出化してきていることに、パラダイムシフトの可能性を感じています。

これからの時代を歩むにあたり、近代的な「自分の力で生きている」という感覚から、「万物に生かされている」という感覚が幸福な人生を送り、持続的な子孫繁栄と人間社会の存続には必要なことではないでしょうか。

自我を拡張することで無我に至る

自分という存在を掘り下げていく中で、自分という唯一無二の確固たる存在は幻想であり、自我という意識は、遺伝子や微生物、命を受けた瞬間の環境や時代、関係する人間たちとの関係ネットワークのなかで醸成され変化し生まれたものであり、自分という存在は存在しないということが僕の見解です。

つまり、自我というものは思い込みであり、他者という存在もまた思い込みということを認知する時、自我が消え無我の世界が広がり、自分と他人という分断の境界線が万物に広がり、全てが自分のなかに溶け込み、自分の一部として受け入れることができるのだと思います。

まさに、微生物たちが我々の体内外で行なっている生態系の循環が無我な生命ネットワークであり、生きとし生けるものが平和で健やかに生かされあう社会ではないだろうか。

参考文献

  • WIRED 「人間はヒトの細胞と細菌から成る「超有機体」」
  • 太田 敏子「目に見えないヒト常在菌叢のネットワークをのぞく」
  • 寺田啓佐『発酵道』スタジオK
  • 小倉ヒラク『発酵文化人類学』木楽舎
  • 熊倉敬聡『藝術2.0』春秋社

千葉恵介

1996年岐阜県生まれ。思想家。
感謝経済という見返りを求めない贈与の循環を滑らかにする潤滑油として「ありがとう」を用いた経済を提唱し、共感する人たちと共に醸している。
また、感謝で繋がる恩贈りSNSであるmusubiを開発し、貨幣に頼らない経済を模索中。
参考 【ファンクラブ】一緒に「ありがとう」で成り立つ経済を創りませんか? - CAMPFIRE (キャンプファイヤー)

今までの「発酵思想」
【発酵思想 vol.0】感謝経済を提唱する思想家・千葉恵介とは? 【発酵思想 Vol.1】発酵から何を学び、次世代に何を残すことができるのか? 【発酵思想 Vol.2】感謝経済を創るのではなく、なぜ醸すなのか?

Follow me!

PAGE TOP